ノコギリヤシが5αリダクターゼを阻害する可能性から、AGA(男性型脱毛症)に対する効果、特に「発毛効果」が期待されていますが、その科学的根拠(エビデンス)はどの程度確立されているのでしょうか。現状を見ていきましょう。ノコギリヤシのAGAへの効果については、これまでいくつかの研究が行われてきました。実験室レベルの研究(in vitro試験)では、ノコギリヤシエキスが5αリダクターゼの活性を阻害することを示唆する結果が得られています。また、動物実験や、少人数の人間を対象としたパイロット的な臨床研究(予備的研究)においても、ノコギリヤシの摂取によって、抜け毛の減少や毛髪密度の改善が見られた、あるいはAGA治療薬であるフィナステリドと比較して一定の効果が見られた、といった報告がいくつか存在します。これらの研究結果は、ノコギリヤシがAGAに対して何らかの有益な効果を持つ可能性を示唆しており、期待を持たせるものです。しかし、これらの研究の多くは、対象者の数が少なかったり、研究デザイン(比較対照の設定など)が十分でなかったり、長期的な効果や安全性が確認されていなかったりといった限界点も指摘されています。より信頼性の高いエビデンスとされる、大規模で質の高いランダム化比較試験(RCT)によって、ノコギリヤシの明確な発毛効果が証明されているかというと、現時点ではまだ十分とは言えない状況です。医学界の一般的な見解としては、ノコギリヤシのAGAに対する効果は「限定的」あるいは「エビデンスが不十分」とされています。プラセボ(偽薬)と比較して統計的に有意な差が見られなかった、という研究結果も存在します。したがって、ノコギリヤシを「確実に髪が生える薬」として捉えるのは適切ではありません。あくまで、効果の可能性が研究されている段階の「健康食品(サプリメント)」として認識しておく必要があります。今後のさらなる研究によって、より明確な効果が示される可能性はありますが、現時点では過度な期待は禁物です。